筋筋膜性疼痛
筋筋膜性疼痛とは、筋肉の中にできたトリガーポイントと呼ばれる過敏な圧痛点(押さえて痛い点)が引き起こす疼痛現象の事です。あまり聞き慣れない名称ですが、近年、筋肉の中に起こるトリガーポイントが、様々な症状を引き起こすという事が認識されるようになり、痛みをコントロールする臨床分野で注目されています。ここでは筋筋膜性疼痛、やトリガーポイントについて簡単に解説してみたいと思います。
筋筋膜性疼痛(きん・きんまくせいとうつう:Myofascial Pain)について
トリガーポイント(過敏な圧痛点)は、どうしてできるの?
トリガーポイントの発生については、筋肉の過緊張や長期にわたる筋収縮が背景にあると考えられています。つまり、自分自身の姿勢を保持したり、仕事環境、スポーツ特性など、特定の筋肉に負荷が掛かり続けることで、筋肉が疲労し、部分的に「伸び」にくい状態になります。
筋肉の柔軟性が低下した環境では、些細な動作による筋肉への負荷でも、筋肉の小さな損傷を引き起こしやすく、ひとたび微細損傷が起こると、筋肉自体はより硬く収縮してしまいます。この「筋肉が縮みっぱなしの環境」が持続することで、血液の循環障害、酸素不足、エネルギー不足、老廃物(疲労物質)の蓄積などを招くと同時に、痛みを感じる神経のセンサーに反応する発痛物質(痛みを感じる素)も放出されるようになり、様々な症状や障害をもたらすようになります。
こんな兆候が思い当れば要注意!!
最近では、不安、怒り、悲しみ、抑うつなど、心の中で感じるストレスが自律神経系に影響し、血管収縮、末梢循環障害を招来し、痛みを発生させる大きな要因であるとも言われています。
図のような兆候があれば筋筋膜性疼痛の危険性があります。
どんなきっかけで痛みが出てくるの?
- 突然痛みを出し始める
捻転動作、自動車事故、落下、骨折、関節の捻挫、脱臼または筋への直接の打撲、など。
- ゆっくりと痛みを出し始める
繰り返しの外力や、ストレスを含んだ動きによる筋緊張の継続的な過負荷など。
筋肉が部分的に「伸び」にくい状態では、筋肉が「すじ張った感じ」がしたり、「関節が硬くなった様な感じ」がしたりしますが、痛みはあまり感じません。
しかし、この環境が大きな痛みを発生させる「前段階」と言われています。そこへ「外からの力」または「自分の筋肉の力」などがきっかけとなり、痛みのスイッチがON!様々な症状が出てきます。
トリガーポイントはどんな症状を出すの?
筋筋膜性疼痛を起こすトリガーポイントは様々な症状や障害をもたらします。一般的には、すじ張って硬くなった筋肉の中に、とても過敏で痛い点として存在します。
痛いところ(痛みを感じる所)と痛みの発信源(トリガーポイント)の場所がちがう
その最大の特徴は、トリガーポイントの部位と、痛みが感じられる領域が離れているということです。これを関連痛と呼び、それぞれの筋肉は異なった痛みのパターンを持っています。患者様が訴える痛みの部位にトリガーポイントが存在するのは、関連痛パターン総数の約1割に過ぎません。言い換えると約9割は、患者様自身が「痛いと感じる所」ではない所に痛みの発信源があると言うことになります。そのため患者様の意識は、関連痛の起こる「最も痛い部分」に向いており、多くの場合、トリガーポイントの存在部位に気づいていません。ですから私ども施術者がトリガーポイントを見つけると、「そんな所が痛かったんですね!」と驚かれます。また探し出したトリガーポイントに刺激を加えると、いつも感じている痛みを再現することができ「ああ、そこ、そこ、そこです!」と痛みの発信源であることが確認できます。
この図は「手首」を反らす仕事をする2つの筋肉の関連痛パターンを示しています。×の部分にトリガーポイント(過敏な圧痛点)が存在すると、患者様自身は赤の点で表れている部分、特に赤色が濃いところほど強い痛みを感じます。ところが、×の部分には赤色が付いていません。このように、トリガーポイントの部分は痛く感じない事が多くあります。しかし、実際にトリガーポイントが存在する皮膚表面を、治療用機器のプローブなどで軽くこするようにすると、ビックリする程の過敏な痛みが存在します。また微弱電流の通電によって、皮膚表面の痛みが徐々に無くなってゆくと、関連痛(この図の場合は手首の赤い部分の痛み)も軽減・消失してゆきます。
体重をかけたり、関節を動かすと痛む。じっとしていてもズキズキする。
トリガーポイントが存在する筋肉を短縮、伸張(特に短縮)させると、そこから離れた場所に痛みがひびきます(放散痛)。筋肉の収縮、伸張は、関節の曲げ伸ばし動作で起こりますから、一般的な日常生活動作によって痛みが発生します。また関連痛パターンには、隣接する関節周辺に出現するものもあり、あたかも「関節が痛い」と思うような痛みかたをします。この状態が長く続くと、関節の曲げ伸ばしをしようとしても、痛くて動かしにくくなることで、関節の動く範囲がせまくなり、今までできていた動作ができなくなったりします。更には、じっとしていてもズキズキうずく様になります。
この図は、太ももの前側にある大腿直筋という筋肉の関連痛パターンを示します。前項でもふれたように×の部分にトリガーポイント(過敏な圧痛点)が存在し、患者様自身は赤の点で表されている部分「膝蓋骨(膝のお皿)周辺」の痛みを訴えられます。一見、膝蓋大腿関節あるいは膝蓋靭帯の痛みのように思えますが、この痛みの場合、股関節前面あたりにトリガーポイントがあり、ここの痛みを無くさなくては膝周辺部の痛みが減る事はありません。主にスポーツを一生懸命やっている若い年齢層に多く見られ、膝関節周辺(特に膝蓋大腿関節)のスポーツ障害として扱われる事が多い痛みです。中高年層にもよくある痛みです。この様な筋肉の過緊張が長期にわたって存在する場合、本当に関節自体の変化(関節軟骨の損傷や磨耗)を起こさせるのかもしれませんね。
その他症状
そのほか、関連痛が起こる範囲にビリビリ感、鈍痛を伴っただるさ、皮膚表面の感覚が鈍い、筋肉に力を入れようとしても入りにくい、など様々な症状を出します。
この図は、手のひらの中手骨という骨の間にある背側骨間筋の関連痛パターンを示しています。×の部分にトリガーポイント(過敏な圧痛点)が存在する場合、赤の点で表されている部分「指の関節周辺」の痛みを訴えられます。この筋肉は中指を中心に、第2指、第4指を広げる、また中指自身を親指側、小指側に傾けるのが主な仕事(作用)ですが、指の曲げ伸ばし動作で補助的に働きます。この筋にトリガーポイントが存在する場合、指の関節の痛みと共に、指のこわばり(指の曲げ伸ばしがしにくい、力が入りにくい)を訴えられる事がしばしば見受けられます。また、手のひら側にある掌側骨間筋に痛みを伴う場合、指先のしびれ(知覚鈍磨)を訴えられる場合もあります。原因は定かではありませんが、筋の緊張により、指の知覚を司る固有の神経が絞扼され症状が出現するのではないかと考えられています。